いわきFC戦の敗戦を受けて、須藤大輔監督が語った言葉には少し意外なものがあった。
「全部が悪いわけではなかった」
試合直後には、走ること、戦うこと、切り替えること、そして執着心について厳しい言葉が並んでいた。
だから映像を見返しても、同じような反省が続くのかと思っていた。
しかし、そうではなかった。
現場で見ていたときには「球際がすごく弱い」と感じていたという須藤監督が、映像を確認すると、全部の球際で負けていたわけではなかったという。
では、横浜FCはどこからいわきの流れに入ってしまったのだろう。
今回のコメントを追っていくと、一つ気になる言葉が残った。
「安牌なプレー」だった。
「何か調子が悪いな」
試合の入りは悪くなかった。
決め切りたい場面もあった。
それでもゴールは入らない。
やがて、いわきの強みである前向きの守備やロングボールからのセカンドボールが少しずつ増えていった。
横浜FCにもイージーなミスが出る。
球際で負ける。
奪ったと思ったボールが相手に渡る。
そうした場面が重なるうちに、須藤監督はチームが「何か調子が悪いな」という方向へ行ってしまったのではないかと振り返っている。
ここが興味深かった。
実際に全部が悪かったわけではない。
映像で確認すれば、球際でも戦えている場面はあった。
それでも要所要所で相手にボールが転がる。
その回数が少しずつ増えることで、「今日はうまくいっていない」という感覚が大きくなっていった。
サッカーを見ている側にも、似たようなことがある。
ミスが続くと、チーム全体が悪く見えてくる。
セカンドボールを何度か拾われれば、「全部負けている」ような感覚になる。
けれど、映像を見返した須藤監督には違う景色が見えた。
全部が悪かったわけではない。
問題は、悪いと感じ始めてからだったのかもしれない。
安牌なプレー
「何か調子が悪いな」
そう感じたとき、横浜FCは思い切ったプレーではなく、安牌なプレーを選ぶようになったという。
背後へ出すより足元。
少し長くなってボールを失う可能性があるパスより、確実につながりそうなパス。
自分たちの時間を作りたいからこそ、手前、手前を選んでしまった。
一見すると、それほど悪い選択には思えない。
ボールを大切にする。
きちんとつなぐ。
自分たちの時間を作る。
横浜FCがやりたいサッカーともつながっている。
ところが、この日の相手はいわきだった。
前向きに守ることを得意とする相手に対して、足元へのパスを重ねる。
同じサイドに閉じ込められる。
そして相手の前向きの守備に引っかかる。
「ちゃんとつなごう」としたことが、相手のやりたいことに近づいてしまった。
須藤監督は、背後へのボールについて「本当に抜けちゃってもいい」と話している。
クロスも同じだった。
途中で引っかかるくらいなら、抜けてしまってもいいから速いボールを入れる。
成功するかどうかだけではない。
相手を後ろへ向かせる。
ディフェンスラインを引っ張る。
そのプレー自体に意味がある。
いわき戦で必要だったのは、失敗しないプレーではなく、失敗する可能性があっても相手の嫌なところを選ぶことだったのだと思う。
やりたいプレーとやるべきプレー
今回の須藤監督のコメントで、もう一つ残った言葉がある。
「やりたいプレーをやってもいいけど、それは時間帯や状況によって、チームとしてやるべきプレーでなければいけない」
横浜FCはボールをつなぎたい。
相手の手前で動かしながら、プレスを剥がしたい。
それ自体を捨てる話ではない。
ただ、相手が前から来ているならどうするのか。
同じサイドに圧縮されているならどうするのか。
相手が今、何を狙っているのか。
そこを見て、一度背後を取る。
相手のディフェンスラインを下げてから、もう一度自分たちのやりたいことを始めればいい。
百年構想リーグから須藤監督の言葉を追っていると、「出力」や「再現性」という言葉が何度も出てきた。
できたことを、次でもできるか。
10回中10回できるか。
その積み重ねをずっと求めてきた。
今度は、その先なのかもしれない。
できることを出すだけではなく、今どれを出すべきなのかを選ぶ。
自分たちの形を持ちながら、相手と状況を見る。
J1昇格への道を進むうえで、また一つ違うものが求められているように感じる。
ゴールへ向かう
そして、須藤監督が「明らかに悪かった」としたものがある。
ゴールへの貪欲さだった。
後ろへ下げるより横へ。
横より前へ。
前へ出すなら、ただスペースへ運ぶのではなくゴールへ直結するプレーを選ぶ。
シュートを打つ。
ゴールへ向かってドリブルする。
クロスを入れて終わる。
ここでも「安牌」という言葉とつながってくる。
シュートを打てば外れるかもしれない。
ドリブルを仕掛ければ奪われるかもしれない。
背後へのボールは通らないかもしれない。
速いクロスは誰にも合わず、そのまま流れてしまうかもしれない。
それでもゴールを奪うためには、どこかでその選択をしなければならない。
チャンスを作ることと、ゴールを奪うことは同じではない。
いわき戦から今治戦までの一週間。
須藤監督が繰り返そうとしているのは、どうやらそこだった。
千葉寛汰という刺激
そんなタイミングで千葉寛汰が加入した。
1トップに怪我人が出ている以上、戦力として必要な補強であることは間違いない。
ただ、須藤監督のコメントを読んでいると、それだけではないものも感じる。
藤枝時代にも指導した千葉について、須藤監督は「俺がやらなきゃ」という思いを持つ選手だと話した。
そして、こう続けている。
一人がそういう執着心を持つことで、そういうグループになり、そういうチームになっていく。
これは今の横浜FCにとって面白い存在になるかもしれない。
千葉が何点取るのか。
今治戦で先発するのか、途中から出るのか。
もちろんそこにも目は向く。
ただ、それ以上に見てみたいのは、ゴールへ向かう選手が一人加わることで周りがどう変わるのかだ。
須藤監督は冗談交じりに「最低でも10得点では少ない」と言い、前線で100点くらい取ってほしいと話した。
100点はともかくとして(笑)、今週のテーマがどこにあるのかはよく分かる。
ゴールへ向かう。
そのための選択をする。
新しく来た一人だけに求めているものではない。
今治戦で見たいもの
今治について須藤監督は、前節の鳥栖戦では「蓋が外れた」ように迷いなくプレーしていたと話している。
そして、いわき戦に続いて球際が一つのポイントになるとも言った。
ただ、今回はこちらも球際だけを見てしまうと、少し違うのかもしれない。
いわき戦を映像で見返した監督自身が、「全部が負けていたわけではなかった」と気づいたからだ。
今治戦で見てみたいのは、うまくいかない時間が来たときだ。
セカンドボールが相手に転がる。
パスがずれる。
シュートが入らない。
そんな時間は、次の試合にもきっとある。
そこで「何か調子が悪いな」と安全な方向へ向かうのか。
それとも、背後へ一本入れるのか。
速いクロスを入れるのか。
ゴールへドリブルするのか。
シュートを打つのか。
前回は「できるのにやらない」という言葉が残った。
今度は、できることの中から「今やるべきこと」を選べるか。
今治戦では、そこを見てみたい。
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