新潟戦、5-0。
スコアだけを見れば、文句のつけようのない大勝だった。
けれど試合後、そしてあらためて映像を見返した須藤大輔監督の受け止め方は違っていた。
「大勝ではないです」
次節・いわきFC戦へ向けたトレーニングでも、監督は選手たちへかなり厳しく要求していたという。
5点を取った。
無失点で終えた。
それでも、できていないことがある。
むしろ、できるようになったことが増えたからこそ、その先にあるものが見え始めたのかもしれない。
須藤監督は今回、それを「二つ目の壁」と表現した。
新潟戦の5-0は完成を示す数字ではなく、次の壁が見えるところまで来たことを示す数字だった。
私は監督の言葉を聞いて、そんなふうに感じた。
「大勝ではない」
「大勝ではないです。どっちに転ぶか分からないゲームでした」
5-0で勝った試合を振り返って、最初に出てきたのがこの言葉だった。
須藤監督は、前半で0-1になっていてもおかしくなかったと話している。
先制したあとにも危うい場面はあった。
攻め切れずにボールを失い、カウンターを受ける。
そのときのポジショニングが悪く、相手の攻撃をそこで潰せない。
結果だけを見れば無失点だったが、その中には失点につながってもおかしくない場面が残っていた。
一方で、5得点したことまで否定しているわけではない。
後半に新潟の足が止まったのは、横浜FCが前半からボールを動かし続けた結果でもあると監督は認めている。
だから、5-0には5-0になった理由がある。
ただし、5-0だったから問題がなくなったわけではない。
この二つを同時に見ているところが興味深い。
そして次の試合へ向かう監督の目は、もう5得点には向いていない。
「次でもできるか」。
やはり、そこへ向いているように見える。
「行くけれども、残りましょう」
新潟戦の3点目は、横浜FCが今やろうとしていることを考えるうえで象徴的なゴールだった。
新保海鈴が背後へ走る。
そこへ長いボールが入る。
背後で起点ができたことで全体が押し上がり、最後はCBの細井響がペナルティエリアへ入って得点した。
須藤監督は以前から、左右のCBがペナルティエリアへ侵入することを「我々の特徴」と話している。
鳥栖戦では細井の横パスから岩武克弥が得点した。
そして新潟戦では細井自身がゴール前まで出ていった。
こうしたプレーの回数が増えていることについて、監督は「我々の理想にすごく近づいている」と話した。
ここまでは攻撃の話だ。
面白いのは、その次だった。
CBが本来のポジションから出ていけば、当然そこにはリスクが生まれる。
だったらCBを残せばいい。
そう考えることもできる。
しかし須藤監督は、はっきり否定した。
「『カウンターが怖いからCBは残れ』という選択肢には絶対にしたくない」
そして続ける。
「行くけれども、残りましょう」
この言葉に、今の横浜FCが進もうとしている方向がよく表れているように思う。
危ないからやめるのではない。
チャレンジすることを前提に、そのチャレンジを成立させる方法を考える。
これは今回だけ突然出てきた考え方でもない。
須藤監督は、選手の判断についても「チャレンジしているポジション取り、チャレンジしているプレーはどんどんやってもらう」と話している。
やってみて違ったら変えればいい。
ただし、後ろ向きの安全なプレーを選んだときには、それは求めていないと伝える。
ここにも同じ考え方が見える。
「危ないからやらない」ではなく、「やるためにどうするか」。
横浜FCが積み上げようとしているものが、また一歩、一本の線に繋がってきた気がする。
「二つ目の壁」
では、CBが出ていったあとをどうするのか。
須藤監督は、そこを「二つ目の壁」と表現した。
新潟戦では、1トップの若月大和に対するリスクヘッジはできていたという。
しかし、その先にいる2列目の選手まで管理できていなかった。
守備をしていた相手選手は、自分たちより前にいることもあれば、少し後ろにいることもある。
その曖昧な位置から、ボールを奪った瞬間に前へ出てくる。
監督の表現を借りれば「湧き上がってくる選手」だ。
そこへの対応が遅れたことで、新潟戦でも危ない場面が生まれた。
だからといって、CBの攻撃参加をやめるわけではない。
ボランチ、逆サイドのウイングバック、3バック中央の選手たちがバランスを取り、出ていった選手の後ろをどう埋めるのか。
攻撃のローリングができるようになったからこそ、そのローリングを続けるための守備が必要になった。
私は、この順番が面白いと思う。
できないことをできるようにするだけではない。
できるようになったものを消さずに、次の問題を解決する。
一つできたら、一つ安全になるのではない。
一つできたから、もう一つ難しいことに挑戦できる。
それが「二つ目の壁」なのだとしたら、今の横浜FCは少しずつ次の段階へ進んでいるのかもしれない。
「各駅停車」ではなく
今回のトレーニングでも、須藤監督らしい言葉があった。
「各駅停車ではなく」
細井から前線へボールが入り、ジョアン・パウロが1トラップからシュートを決めた場面。
監督は「それが理想だ!」と声をかけたという。
狭いところでボールをつなぐことは、横浜FCの特徴の一つでもある。
ただ、それ自体が目的ではない。
監督が最も優先したいのは、相手の最終ラインと勝負できるボールだ。
そこへボールが入れば、相手は危険を感じて潰しに来る。
そうすれば別の場所が空く。
新潟戦の3点目にも、その一端が見えていた。
これまで少し弱かったと監督が話す、背後へのランニングと、そこへ長いボールを通すこと。
その一つがゴールにつながった。
5得点という数字をひとまとめにして見るよりも、その中に「今までなかったものが一つ増えた」と見るほうが、次の試合を見る楽しみは増える。
いわき戦でも、横浜FCはボールを持つだろう。
そのとき、各駅停車になっていないか。
最終ラインと勝負するボールが入るのか。
そこから何が空くのか。
次に見てみたいものが、また一つ増えた。
大勝の次が怖い
ただ、須藤監督が今回もっとも警戒しているのは、戦術だけではないように思う。
新潟戦後のトレーニングで厳しく要求した理由について、監督はこう話している。
「今のチーム状況を考えると、これが一番危ない」
百年構想リーグでも、良い試合をしたあとに負けたことがあった。
今季に入ってからも、山形戦では横浜FCらしく戦えず、鳥栖戦では試合の入りを間違えたと監督は振り返っている。
新潟戦で得たのは勝点3。
そして得失点差+5。
しかし、その次の試合で勝点を奪えなければ、その価値を十分に積み上げられない。
ここはJ1昇格を目指す今季を考えるうえで、大切なところだと思う。
5-0で勝てる試合があることはもちろん大きい。
でも長いリーグ戦で順位を作っていくのは、その一試合だけではない。
5-0の次にどう戦うか。
良い試合のあとでも、同じようにフィフティのボールを競えるか。
失ってはいけないところで失わないか。
もう一度、同じ強度で試合に入れるか。
須藤監督が練習後の円陣で厳しく言葉を投げたのは、5-0を忘れさせるためではなく、5-0を本当の積み上げにするためだったのではないだろうか。
「いわきらしいいわき」
そして、その確認をする次の相手がいわきFCというのも興味深い。
試合を前に、いわきは田村雄三監督の辞任と田坂和昭新監督の就任を発表した。
それを知った須藤監督は、
「もう、それこそ(本来の)いわきになって、ロングボール、カウンター、球際、そうした『魂の息吹くサッカー』をやってくると思います」
と話している。
ロングボール。
カウンター。
球際。
偶然にも、新潟戦のあとに横浜FCが見直している部分と重なる。
ボールを失ったあとにどうするのか。
フィフティのボールを競えるのか。
攻撃に人数をかけながら、相手のカウンターを止められるのか。
須藤監督は、そんな相手を「すごく良い相手」と表現した。
確かにそうなのかもしれない。
新潟戦で見えた課題を、すぐ次の試合で試される。
しかも、監督交代によって原点回帰してくる可能性のあるいわきが相手になる。
横浜FCが「二つ目の壁」に手をかけているのなら、その壁がどんなものなのかを見るには、これ以上ない相手なのかもしれない。
5-0のその先へ
5-0だった。
それでも須藤監督は「大勝ではない」と言った。
私は、この言葉を5得点への否定とは受け取らなかった。
むしろ逆なのだと思う。
背後を取った。
CBがペナルティエリアへ入った。
動き続けたことで相手の足を止めた。
できるようになったことがある。
だから、その先を見ることができる。
CBを残して安全になるのではなく、CBを行かせながら残る。
チャレンジを減らすのではなく、チャレンジを続けられる状態を周りが作る。
そして、大きく勝った次の試合でも勝点を積む。
5-0で完成したわけではない。
5-0だったからこそ、次の壁がはっきり見えた。
いわき戦で見たいのは、もう一度5点を取れるかではない。
新潟戦で見えた「二つ目の壁」に、横浜FCがどう向き合うのか。
J1昇格への道を追うなら、こういう一試合のほうが、案外あとになって大きな意味を持つのかもしれない。
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